ザイマックス総研『大都市圏オフィス需要調査2022春』によれば、企業におけるフリーアドレス席の採用率は2017年から2022年までに、16.7%から34.8%に増加しています。
従来型の固定席オフィスからフリーアドレスオフィスへの変化がうかがえます。
しかし一方で、ここ1〜2年はフリーアドレスを見直す動きも出てきています。
失敗の要因としては「席が奪い合いになる」「騒がしくて集中できない」といったことなどが挙げられていますが、最大の要因は「形から入ったこと」だと言われています。(※ 2020年1月23日 日経新聞『日経ニューオフィス賞』より)
フリーアドレスはニューノーマル時代の新しい働き方に相応しい制度です。
そこで本記事では、フリーアドレスを導入した新しい働き方を実現するために、フリーアドレスのメリットとデメリット、導入の流れと成功させる運用ルールについて解説します。
また、フリーアドレス化を成功させた事例もご紹介します。
オフィスのお困りごとは、オフィスのプロにお任せください!
無料
今すぐカタログ請求!
最短24時間以内
まずは相談!
フリーアドレスとは?
フリーアドレスとは、社員がオフィスの中で固定席を持たず、自由に席を選んで仕事をするという働き方のことです。
ICT(情報通信技術)の進歩により、ノートパソコンやスマートフォンなどのモバイル端末を用いて、カフェでも電車の中でもどこででも時間や場所を選ばず働けるようになりました。
フリーアドレスは、このようなモバイルワークを導入している企業に適した制度です。
また、フリーアドレス制度を導入したオフィスでは、「フリーアドレスデスク」という長机形式のテーブルを採用します。
自分専用の席ではなく、一つのデスクを複数人で共有し、空いている席から自由に選んで使います。
デスクの上には私物や個人専用のパソコンを置けないため、社員はモバイル端末を使用し、荷物はパーソナルロッカーを使うか、持ち運ぶ必要があります。
【 オフィスレイアウトの詳細はこちら 】
レイアウト変更楽々!キャスター付きフリーアドレスデスク、人数に合わせて増設することで少人数から大人数まで対応できるフリーアドレスデスクなど様々なタイプのフリーアドレスデスクを取り揃えております。
フリーアドレスのメリットとは?
近年、増加傾向にあるオフィスのフリーアドレス化ですが、企業にとってどのようなメリットが得られているのでしょうか。
ここでは導入のメリットについて紹介します。
主に以下のようなメリットが挙げられます。
《 フリーアドレスのメリット 》
- 流動的な人の交流により社内コミュニケーションが促進される
- 部署を越えたコラボレーションが活性化する
- 社員一人一人が主体的に働くことで業務パフォーマンスが上がる
- オフィスの省スペース化・賃貸料削減を図れる
- 組織変更や増員・減員によるレイアウト変更がしやすい
流動的な人の交流により社内コミュニケーションが促進される
フリーアドレスオフィスは、席が固定されていないためオフィス内を人が往来します。
固定席は部署単位で座席が構成させるため、同じ部署内でのコミュニケーションは活発であったとしても、他部署との横のつながりが希薄になりがちです。
フリーアドレス化することで様々な部署のメンバーが入り交じって仕事をするようになるため、横のつながりを強めることができます。
また、フリーアドレスオフィスでは、カフェスペースやオープンなミーティングスペースを併設することで、今まで話す機会がなかった社員同士が交流する「場」をつくるのが特徴です。
部署を越えたコラボレーションが活性化する
自分とは異なる分野の情報や発想に触れることは大きな刺激になります。
部署の垣根を越えて社員同士が刺激し合うことで、新しいビジネスが生まれることを期待できるのがフリーアドレスの最大のメリットです。
社員一人一人が主体的に働くことで業務パフォーマンスが上がる
お互いに刺激し合うような交流は、社員のモチベーションやワークエンゲージメントの向上に寄与し、結果的に社員一人ひとりが主体的に働く仕組みができるといったメリットをもたらします。
また、働く場所を自分で決めなければいけないため、自然と自律した働き方ができるようになるのもフリーアドレスオフィスのメリットです。
オフィスの省スペース化・賃貸料削減を図れる
有効的なオフィススペースの使い方ができるのもフリーアドレスオフィスのメリットです。
オフィス出社とテレワークを組み合わせた働き方を前提として、出社とテレワークをする社員の割合をそれぞれ計算し、必要なオフィススペースの面積を算出します。
これにより、オフィスの省スペース化、及び賃貸料を削減することが可能になります。
組織変更や社員数の増減に合わせてレイアウト変更がしやすい
固定席の場合、座席が固定化されているためレイアウト変更がしづらいというデメリットがあります。
一方、フリーアドレスオフィスは自席で管理している書類や資料などを移動させる必要がないため、席を自由に動かしやすいというメリットがあります。
レイアウト変更がしやすいということは、働きやすいオフィスへと常にアップデートできるといったメリットにもなるということです。
フリーアドレスのデメリットとは?
オフィスのフリーアドレス化はメリットだけではありません。
もちろんデメリットもあります。
フリーアドレスを導入してみたが失敗してしまったという事例も多くありますが、その原因は、デメリットを認識していなかったことにあります。
最も重要なことは、自社にとってフリーアドレスがメリットのある働き方なのかを見極めることです。
本章では、フリーアドレスのデメリットについて解説します。
フリーアドレスオフィスの主なデメリットは以下の通りです。
《 フリーアドレスのデメリット 》
- ICT環境の整備が必要、導入コストがかかる
- 誰がどこにいのるか居場所がわかりづらい
- 同じ部署やチームメンバーの業務進捗や状況を把握しづらい
- オフィス内の騒音が集中力を妨げる
- 業種や業務内容によって向き不向きがある
ICT環境の整備が必要、導入コストがかかる
初期投資としてのコストの問題があります。
フリーアドレスオフィスでは、モバイルワークが基本となります。
ノートパソコンやスマートフォンなどデバイスの導入、インターネット環境の無線化、社外でも社内と同様の仕事ができる業務環境づくりなど初期費用がかかります。
働き方、適正なオフィス面積・賃料の見直しを合わせて行うことで有意義な投資となるでしょう。
誰がどこにいのるか居場所がわかりづらい
フリーアドレスは個人の席が特定できないため、誰がどこにいるのか、社内にいるのかどうなのかがわかりにくいといった問題があります。
そういった場合には、空席の確認や席を予約できるクラウドサービスを導入するなどすれば、社内を歩き回ることなく居場所を簡単に把握することができます。
【 座席管理システムSuwary(スワリー) 】
同じ部署やチームメンバーの業務進捗や状況を把握しづらい
固定席では、部署単位でデスクを並べていたため、チーム連携やマネージメントがしやすいという点でメリットがありました。
しかし、フリーアドレスオフィスは誰がどこにいるのか居場所の特定がしづらいため、部署やチームメンバーの業務進捗状況を把握しづらいといった問題が生じます。
また、チームワークを発揮するためにはコミュニケーションが欠かせませんが、メンバーが個々に仕事をするようになるとコミュニケーションが希薄になる可能性があります。
チーム連携が上手くいかない問題は、社員の士気や帰属意識の低下につながりますので十分に配慮する必要があります。
オフィス内の騒音が集中力を妨げる
社員にとって「騒音」は、最大のデメリットとなるかもしれません。
交流を目的としたオフィスでは、人の動きが活発になりますので、周囲の音が気になり「集中しづらい」というデメリットが生じます。
社員の業務に合わせた環境をつくらなければ、かえって生産性を落とすことにもなり兼ねません。
- 関連記事
- オフィスに集中ブースを設置するメリットと具体的な設置方法については、「集中ブースがオフィスになくてはならない理由とは?具体的な4つの対策」にて詳しく解説しています。ぜひ、合わせてご確認ください。
業種や業務内容によって向き不向きがある
フリーアドレスオフィスは業種や職種によって向き不向きがあります。
生産性の低下だけでなく、思わぬリスクが伴う可能性がありますので注意が必要です。
個人情報や社外に持ち出せない機密性の高い情報を扱う部署は、セキュリティ管理上フリーアドレスよりも固定席の方が適しています。
管理・経理部門などのように、居場所が分かっていた方が業務効率が良い部門もまた、固定席の方が向いています。
また、総務部やコールセンターのような受電が多い職種やデスクトップパソコンが必要なクリエーターやエンジニアなどの専門職もフリーアドレスより固定席の方が適しています。
事務職は全般的にフリーアドレスよりも固定席の方が向いていると言えます。
一方、モバイルワークが可能な営業職が多い企業はフリーアドレスに向いています。
向いている職種と向いていない職種が混在する企業では、オールフリーアドレス(全面フリーアドレス)にするのではなく、一部をフリーアドレス化するなど、柔軟に対応し自社の働き方に合ったオフィスレイアウトを検討することが重要です。
こんな企業はフリーアドレスの導入がおすすめ
部署を越えたコミュニケーションを強化したい
従来の島型レイアウトでは、同じ部署のメンバーとのコミュニケーションが中心となり、他部署との交流が頻繁にあるとは言えません。
日本企業の組織は「縦割り」傾向が強いといったことが以前から言われています。
縦割り組織には、トップダウン型の管理により視野が狭くなる、部署間の意思疎通を損なう、部署内で同調圧力が起こりやすいといった弊害があります。
これらの弊害を課題とする企業にとって、フリーアドレスの導入は、課題を改善する機会となるでしょう。
社員の動きが流動的になることで今まで交流のなかった部署とコミュニケーションの機会が生まれますし、交流を通して新しい情報やアイデアに触れることで視野を広げる機会にもなります。
働き方を見直してオフィス空間を有効活用したい
コロナ禍以降、ハイブリッドワーク(※)を導入したことで、「今まで通りのワークスペースが必要なくなった」「オフィスのレイアウト変更をした」という企業も多いでしょう。
今後は「100%オフィスワーク」という企業は珍しくなると思われます。
オフィススペースの有効活用をしたい企業にとってフリーアドレスの導入はおすすめです。
今までは人数分の席数を用意するのが当たり前でした。
しかし、テレワークなどによって日中使われなくなったワークスペースが空きスペースになっていたとしたらもったいないことです。
そこで、この無駄になっしまっているスペースを別の目的とするスペースに転用することで有効活用を図ることができます。
例えば、WEB会議ブースを設置したり、集中スペースやコミュニケーションスペース、リフレッシュ(仮眠)スペースを作るなどすることがあげられます。
ABW型の働き方を進めたい
ABW(Activity Based Working)とは、業務の内容や個人の気分、都合に合わせて、時間や場所を自分で自由に選択することができる働き方のことです。
オランダを発祥とするワークスタイルの概念です。
グローバル企業では馴染みのある働き方ですが、日本企業でも昨今では採用される例が増えてきました。
どこまで「時間」と「場所」の自由が許されるかは難しいところですが、業務の内容に合わせて働く場所を選ぶという働き方は、仕事の能率を上げる上で理にかなっているため、考え方として採用しやすいのではないかと思います。
フリーアドレスオフィスもまた、「場所を自由に選べる」という点においてABWと近い働き方でもあります。
業務の内容に合わせたワークプレイスを構築したいと考えているのであれば、働き方の再考と再構築とともにフリーアドレスの導入をおすすめします。
フリーアドレスの導入を成功に導くための3つのポイント
① フリーアドレスを導入する「目的」を確認する
フリーアドレスを導入したものの失敗してしまったという事例が多数あります。
その要因は何だったのでしょうか。
「形から入ってしまった」からだと言われています。
何となく「オープンでかっこいい現代的なオフィス」というイメージ先行で導入したために失敗してしまったということです。
フリーアドレスの導入を成功させるために最も重要なことは目的を明確にすることです。
「何のためにフリーアドレス化するのか?」
「フリーアドレス化してどのようなことを実現したいのか?」
まずは導入前にフリーアドレス化する目的を明確にしておくようにします。
そして、全ての社員がその目的について理解するよう浸透させる作業も必要です。
ここでは、フリーアドレスを導入する目的の代表例を見てみたいと思います。
主に次の4つが挙げられます。
- オフィススペースの効率化とコストの削減
- 社内コミュニケーションの促進
- 社員の意識・行動の変革
- 従業員満足度(ES)の向上
オフィススペースの効率化とコストの削減
コロナ禍を経験し、オフィスの縮小移転を視野に働き方の見直しに取り組む企業が増えています。
通勤を前提としたオフィスでは、社員全員分の座席を用意していました。
しかし、オフィスワークとテレワークを両立した働き方へと変化した今、従来のオフィススペースを確保する必要はないかもしれません。
社員全員分の座席を設けないフリーアドレスオフィスは、このようなハイブリットな働き方に適したオフィスシステムだと言えます。
出社する社員とテレワークをする社員の人数を調査し、座席の稼働率がどれくらいになりそうかを算出することで、オフィス面積を最適化することができます。
また、オフィス面積を削減できた場合、賃料や通勤費の削減といった副次的な効果も期待できます。
社員一人ひとりの「働きやすい環境づくり」に資金を回すことができれば、労働生産性やワークエンゲージメントを高め、会社の成長につながる投資となるでしょう。
- 関連記事
- 働き方とオフィスの在り方を見直し、オフィスの縮小移転を視野に働き方を見直す方法について「オフィスの縮小移転を視野に変革する企業が増加!働き方を見直す方法とは?」にて詳しく解説しています。ぜひ、合わせてご確認ください。
社内コミュニケーションの促進
フリーアドレスの導入目的で最もよく挙げられるのは、社員同士のコミュニケーションの促進です。
企業はモノやサービス、組織やビジネスモデルなどに新たな考え方を取り入れることで新しい価値を生み出すことを必要としています。
そのためには、部署を越えた社員同士の交流が効果的です。
フリーアドレスオフィスは、席が固定されないため色々な部署の人が入り交じって仕事をすることになります。
従って、普段接することがない人とコミュニケーションをとる機会を創出することが期待できるのです。
コミュニケーションを通して他部署の仕事について知ることで気づきやひらめきを誘発することに繋がります。
オフィスには「つながりの場」としての役割が求められています。
社員の意識・行動の変革
フリーアドレスを導入したオフィスでは、仕事の内容に応じて働く場所を「自分で」選びます。
自分の仕事は、自分で管理しなければなりません。よって、社員は自律的な働き方が求められます。
自発的に行動できる人材や組織づくりに効果的です。
従業員満足度(ES)の向上
自己裁量度が高まると、生産性とワークエンゲージメントが高まることが分かっています。
生産性に最も影響を与えるのは「空間機能性」で、活動に応じて選択できる空間を多く与えられているワーカーとそうではないワーカーでは、生産性に25.5%の差があることも分かりました(※)。
自律的に働くことが、結果的に仕事に対してポジティブな感情を抱き、充実していると感じることにつながります。
② 運用を維持するための仕組みを作る
フリーアドレスの導入を成功に導くためには運用を維持するための仕組みづくりが大切です。
また、社員全員が参加する形で運用できなければ上手くいかないでしょう。
そこで、一方的に運用ルールを決めるのではなく、エリアごとの目的を明確にすること、そして、その目的にあった運用を促す仕組みが重要です。
例えば、フリーアドレスデスクでミーティングを始めてしまうと、周りで働いている人は集中できなくなりますし、集中ブースをひとりの人が長時間独占してしまえば、他にも使用したい人が使えないことになってしまいます。
具体的な運用ルールについては、後述の「フリーアドレスを成功させる運用ルールとは?」にて解説します。
③ ツールを活用して働きやすい環境を作る
フリーアドレスオフィスにおいて業務パフォーマンスをより高める有効な手段として、ツールを活用する方法があります。
一方で、フリーアドレスには「騒がしくなりがちである」「荷物の置き場所に困る」といった課題もあります。
これもまた、ツールによって働きやすい環境へと変えることができます。
ここでは、フリーアドレスオフィスを働きやすい環境にするためのツールをご紹介します。
-
- 商品名
- スタッキングホワイトボード
- 用途
- ミーティング/グループワーク
- 商品の特徴
- 単独に、もしくは並べてワイドにも使える可動式のホワイトボード。
グループワークに◎。
必要な時にだけ持ち出して、使わない時は省スペースに収納できます。
-
- 商品名
- Thredy ホワイトボードパーテーション
- 用途
- ミーティング/間仕切り
- 商品の特徴
- 空間を間仕切るだけでなくホワイトボードとしても利用できます。
連結はマグネット式、360度角度調節できるのでレイアウトが自在です。
-
- 商品名
- Hibis ハイバックソファ
- 用途
- パーソナルブース/集中スペース
- 商品の特徴
- 周囲の視線や声を適度に遮断する半個室空間が簡単につくれます。
集中した時だけではなく、オンラインミーティングなどソロワーク空間としても使えます。
-
- 商品名
- REMUTE リミュート 吸音卓上ボックス
- 用途
- デスクトップブース/集中スペース
- 商品の特徴
- 周りの話す声で集中できない時や商談などで電話をする時など、デスクの上に置くだけでデスクが簡易な集中ブースになります。
-
- 商品名
- Lemoda 木製メールロッカー・収納庫
- 用途
- パーソナルロッカー/収納庫/セキュリティ
- 商品の特徴
- フリーアドレスオフィスでは、荷物のセキュリティ対策が必須です。
鍵付きのパーソナルロッカーは、社員が不在の時も郵便物や書類などの受け渡しができるポスト付きです。
-
- 商品名
- Garage パーソナルロッカー・収納庫
- 用途
- パーソナルロッカー/収納庫/セキュリティ
- 商品の特徴
- スタイリッシュなハイベース脚のパーソナルロッカー。
両開きタイプもラインアップされているので組み合わせも◎。
暗証番号固定方式と都度変更方式が選べるダイヤル錠付き。
フリーアドレスの導入の流れ(導入方法)
フリーアドレスの導入が成功するかどうかは、社員がその必要性を感じられるかにかかっています。
経営側の目的を一方的に社員に押し付けるものであっては決して上手くいきません。
社員の納得と共感を得るプロセスがとても重要です。
そこで本章では、フリーアドレス導入までの流れと注意点について解説します。
ステップ① 事前調査 : 現状把握と社員ニーズの把握
事前調査として社員が抱えている悩みや職場の問題・課題についてヒアリングします。
ワークショップ・グループインタビュー、ヒアリング、アンケートなどあらゆる手段を使い、徹底的に現場の意見の収集や議論を行います。
フリーアドレスは働き方を変えることです。
なぜ働き方を変えなければならないのか、何のために働き方を変えるのかについて社員が納得や共感をすることが重要です。
また、経営側にとっても、今まで気づけなかった社員のニーズをとらえる良い機会となります。
働きやすい環境づくりは、社員のワークエンゲージメントの向上につながり、結果的に企業の成長をもたらします。
社員が働きやすくなった、仕事に意欲が持てるようになったという実感が湧いてこそ成功と言えるでしょう。
ステップ② 導入可否の判断・適用範囲と在席率の検討
フリーアドレスオフィスは業種や業務内容によって向き不向きがあると述べました。
自社の仕事内容がフリーアドレスオフィスに適しているのか、導入によって社員が働きづらくなり、生産性の低下につながらないのかを検討します。
いきなり全面フリーアドレス化するのではなく、「グループアドレス」という選択肢を検討することもおすすめします。
グループアドレスは、部門やグループ単位で席を共有するシステムです。
全部門が自由に席を選ぶわけでなくある程度の制限の中で席を選ぶシステムになっており、オールフリーアドレスに比べ、席の選択性が低いといったデメリットはありますが、チーム連携やマネージメントがしやすいといったメリットもあります。
ステップ③ 目標・KPIの設定
フリーアドレスの導入が成功したかを検証するために目標・KPIの設定をします。
結果に対して「達成した要因は何だったのか」「何が問題となって達成できなかったのか」といった振り返りができるようになります。
KPIには社員の満足度や受容度を測る指標を設定すると良いでしょう。
フリーアドレスを導入する目的について全ての社員の納得と共感を得られるよう、「何のためにフリーアドレス化するのか?」「フリーアドレス化してどのようなことを実現しようとしているか?」を明示して浸透させる作業も怠らないようにしましょう。
ステップ④ トライアル導入・運用・検証
目標設定を行なったところで実際にトライアル運用を開始します。
トライアルの段階では、運用上の問題や課題を発見し、検証することが最も重要です。
Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)のサイクルを行うことはフリーアドレスの導入においても有効です。
ステップ⑤ レイアウト設計・運用ルールの策定
トライアル運用で検証した結果をもとにして、レイアウト設計と運用ルールの策定を行います。
レイアウト設計は、スペース設計・動線設計・フリーアドレスの適用範囲と座席数の決定・オフィス家具の選定を行います。
運用ルールの策定は、トライアル運用の中で課題となったことをルール化します。
ステップ⑥ 全社導入(運用スタート)
いよいよ本格的な運用を開始します。
本格的と言っても課題は常に出てくるものです。
社員へのヒアリングや満足度の計測を定期的に行い実態を知ること、そしてブラッシュアップをしていくことが重要です。
フリーアドレスを成功させる運用ルールとは?
これまで見てきたように、オフィスのフリーアドレス化はメリットがある一方でデメリットもあります。
ただ単にフリーアドレス化しただけでは失敗してしまうでしょう。
フリーアドレスオフィスが自分たちの仕事の生産性を下げてしまわないか、しっかりと見極めることが大切です。
本章では、多くの事例からフリーアドレス化を成功させるために必要な基本的運用ルールについてご紹介したいと思います。
《 フリーアドレスオフィスの運用ルール 》
- 紙からデータへ 情報共有のルールを決める
- 業務内容に合わせたオフィスレイアウトにする
- 共用座席の使用ルールを決める
- 席が固定化されないためのルールを決める
- 収納ルールを決める
- 電話や郵便物の取次ルールを決める
紙からデータへ 情報の保管・共有のルールを決める
フリーアドレスデスクでは、紙の書類を自席で保管することができません。
必要な書類や資料はデータ化して共有フォルダに格納しておく必要があります。
フォルダやファイルが散乱して、どこにどの書類が格納されているのか分からなくなることがよくあります。
探している書類を探すために片っ端からファイルを開いて確認するということがあっては、生産性を下げてしまいます。
どこに、どの書類を、どのようなファイル名で分類・保管するのかについてルールを決め、必要な書類にすぐにアクセスできるようにしなければなりません。
業務内容に合わせたオフィスレイアウトにする
フリーアドレスオフィスは全ての職種に適したシステムではありません。
社員がそれぞれどのような業務を行っていて、どんな働き方をしているのか、リサーチをする中でデスクレイアウトを決めるようにしましょう。
フリーアドレスオフィスに似たオフィスシステムでABWオフィスというものがあります。
Activity Based Working の略で、活動内容に応じて場所を選択するといった働き方です。
オフィス内を「集中するエリア」「リフレッシュするエリア」「カジュアルにミーティングをするエリア」というようにエリア分け(ゾーニング)します。
フリーアドレスオフィスは人の往来が多くにぎやかになりがちです。
集中できないという声はフリーアドレス化したオフィスではよく聞かれる声です。
したがって、業務内容に応じたエリアをつくることで社員がパフォーマンスをあげられるような工夫が求められます。
共用座席の使用ルールを決める
フリーアドレス席は基本的に全社員で共有するものです。
自分の後に利用する社員が気持ちよく仕事ができるようルールを決める必要があります。
例えば、「離席する際にはデスクやチェアを掃除(消毒)する」「ゴミをデスクの上に残していないか確認する(ゴミ箱に捨てる)」といったように清潔に利用するためのルールを決めることが大切です。
その他、「フリーアドレス席でのWeb会議の参加や電話を禁止する」といったルールも必要かもしれません。
フリーアドレスオフィスにはコミュニケーションを活性化させる役割がありますが、ワークスペースは「作業の場」ですから集中したい人もいるはずです。
エリア分け(ゾーニング)をすることで各業務に適した場所をつくるようにしましょう。
席が固定化されないためのルールを決める
何となくいつも同じ場所を選んでしまうことは誰しもあるのではないでしょうか。
さらには、私物を置いたり、空間を改変するなどして、いつの間にか自分の専用席のようにしてしまっていることもあるかもしれません。
このような「縄張り化」する行動は人間の特性でもありますから、固定席化されないよう対策を講じることが必要です。
席が占有されてしまうと、自由に席を選べない雰囲気をつくってしまい、使いづらいオフィスになってしまうかもしれないからです。
「私物はデスクの上に残さず個人用のロッカーに片付けて帰る」「同じ席を毎日使えないようにする」「決められた時間内に戻って来れないのであれば席を変える」などといったルールが有効です。
収納ルールを決める
オフィスで収納が必要な物品は、私物と共有物に分けられます。
固定席ではワゴンやデスクの引き出しに保管できていた私物ですが、フリーアドレスオフィスでは私物をデスクに置いておくことはできません。
業務に必要なPC、書類、文房具などは席を移動するたびに持ち運ばなければならないため、社内用の持ち運びバックを用意したり、デスクに荷物を掛けるフックを取り付けるなどして対応します。
その際、荷物を床に置かないといったルールを決めておくと良いかもしれません。
通りかかった人が荷物に足を引っ掛けて怪我をしてしまう危険性があるからです。
また、帰宅する際に荷物を保管する場所も必要になります。
不在時の私物の保管には個人用のロッカー(パーソナルロッカー)を用意して対応します。
個人用ロッカーは、セキュリティの観点からも非常に重要です。
紛失や盗難などのリスクを考慮する必要があります。
一方、部門で共有する書類や備品は共用ロッカーを用意して整理整頓するよう周知することが大切です。
電話や郵便物の取次ルールを決める
居場所を特定しにくいフリーアドレスオフィスでは、電話や郵便物の取次にもルールを決める必要があります。
個人用のロッカー(パーソナルロッカー)を設置する場合は、メールボックス機能(扉の上部に投函口が付いている)のあるタイプのものを設置すれば、その人が不在であったとしても郵便物の取次に手間がかかることはありませんし、全員分のロッカーが一つの場所にあればまとめて投函できるため業務効率アップにもつながります。
電話の取次には、個人用の携帯電話を支給して対応すると良いでしょう。
合わせて、クラウドPBXというサービスを利用すれば、自宅や外出先からでもオフィスの電話番号での発着信が可能になり、個人のスマートフォンで内線転送もできるようになります。
フリーアドレスを導入するにあたって課題になることとは?
これまで、フリーアドレスのデメリットについて、そして、導入を成功させるための手順と運用方法についても解説してきました。
これらを踏まえて、本章では、フリーアドレスを導入する際にしばしば持ち上がる4つの課題について解説します。
① 紛失や盗難などのセキュリティリスクが生じる
フリーアドレスオフィスでは、紙の書類やカタログ、個人の荷物などを個人の席で管理することができません。
固定席の場合、基本的に引き出しやワゴンには鍵が付いているため、ある程度セキュリティーを確保することも可能でした。
しかし、フリーアドレスデスクは一つのデスクを複数人で共有するため、紛失や盗難などのセキュリティリスクが生じます。
書類はデータ化しクラウド上で管理する、不在時に私物を管理する場所(パーソナルロッカー)を設ける、社内での貴重品や重要な紙書類等の管理方法の徹底など、それぞれのリスク管理に努める必要があります。
② 部下が目の届く場所にいないためマネジメントがしにくい
フリーアドレスオフィスは、島型レイアウト(※)とは違い、部下が目の届く場所にいないため、仕事の進捗管理や、健康や仕事上のトラブルなどに気付きにくく、マネジメントがしにくいという課題があります。
したがって、従来のマネジメント方法を改めなければなりません。
基本的に上長と部下が離れた場所で仕事をすることになるため、上長と部下は、目標設定をしっかり行うことで目指す方向性を一致させること、またその進捗についてどのように報告すべきかを話し合うことが必要です。
また、上長は部下が健康面や仕事上のトラブルを抱えていないかに気づいてあげるためにも意識的にコミュニケーションを取るよう心がけることが大切です。
※)部署やチームごとに社員同士が向かい合い、端に上長を配置するデスクレイアウト
③ 部署やチーム内のコミュニケーションが希薄になる
対面でのコミュニケーションは、相手の身振り手振り、表情のちょっとした変化などから、相手の気持ちを感じとることができます。
上司や同僚と信頼関係を築く上で大変重要な手段だと言えます。
フリーアドレスオフィスは既にご存知のように、誰がどこにいるのか居場所をすぐに特定しにくいために、例えば同じ部署の人を探すにも時間がかかってしまいます。
コミュニケーションを取るにも時間と手間が掛かるため、コミュニケーションの量も自然と減ってしまいます。
対面でのコミュニケーションの減少は、信頼関係を築くことが難しく、チームワークの低下や、仕事に対するモチベーションも下げてしまうことになりかねません。
そこで、社内SNSやビジネスチャットツールを活用したり、定期的にチームで集まるなど、意識的にコミュニケーションの機会をつくることが重要になります。
④ 帰属意識が低下する
帰属意識とは、「(自分は)その組織や集団の一員である」という意識や感覚のことです。
社員の帰属意識が高い会社では、社員の会社に対する愛着が高く、会社の目標のために貢献しようと考え行動する傾向にあります。
社員は仕事にやりがいを感じ、業務に熱心に取り組むようになりますし、長く働いてくれる社員が増えることも期待できるでしょう。
しかし、フリーアドレスオフィスでは、自分の席がないため孤独感を感じる社員が出てくることがあります。
これでは「自分はこの会社の一員だ」という意識が薄れ、会社に貢献したいという意欲さえも失われてしまうことでしょう。
社員の帰属意識を高めるには、会社と社員が同じ方向性を持つことができるよう社員に対して経営理念やビジョンを提示し浸透させる、社員の「(会社の仲間と)一緒に働きたい」という気持ちを醸成させるため社内コミュニケーションの量を意識的に増やすなどといった対策が必要です。
成功事例からみるフリーアドレス化を成功させるポイント
本章では実際にフリーアドレスオフィス化した事例から、導入の目的や成功させるためのポイントについてご紹介したいと思います。
日本臨床栄養代謝学会 様
《 導入の目的・成功ポイント 》
- 移動の自由度を高めることで、勤務する事務員が意見の交換やコミュニケーションをとりやすくなる。
- 上司の机や専用の部屋も撤廃することで、ボーダーレスな組織づくりを目指すことができる。
エル・エス・アイ ジャパン株式会社 様
《 導入の目的・成功ポイント 》
出社しなければできない仕事を行う社員もいる中で、彼らがいかに快適に仕事ができるかというところを突き詰めて考え、大きめのパーテーションを使って集中できる空間を作り、一部フリーアドレス化を進めることで精神的にもゆとりのあるオフィスが構築できた。
情報サービス業 様
《 導入の目的・成功ポイント 》
ワークスペースを一人で集中できる「個室ブース」とフレキシブルに使用できる「フリーアドレス」の2種でメリハリのある働き方を実現した。
アフターコロナは「ハイブリッド型ワークスタイル」が新しい働き方になる
緊急事態宣言の発令に伴い、企業は出社制限やテレワークにより出社率を削減することが求められました。
また、業務の都合上どうしても出社しなければならない業種でも、時差出勤やローテーション勤務などで対応してきました。
このように私たちはオフィス出社とテレワークを組み合わせた働き方を有無を言わせず経験することになりました。
今後も感染予防をしながらの日常生活を送らなければならないことを考えると、オフィス出社とテレワークを組み合わせたハイブリッド型ワークスタイルが浸透していくと考えられます。
現在増加傾向にあるオフィスのフリーアドレス化の流れは、働き方改革が推進される中で普及してきました。
かつてオフィスにフリーアドレスが導入された時期がありました。1980年後半から2000年代初めにかけてのことです。
これをフリーアドレス1.0と呼んでいます。
デスクを共有化し空席の回転率を高めることで、オフィスの省スペース化とコスト削減を目的とするものでした。
当時はワープロやパソコンが普及するなどOA化が進んだ時代ではありましたが、パソコンはデスクトップ、電話は固定電話、文書管理は紙ベースと、固定席の方が働きやすい環境だったこともありオフィスのフリーアドレス化は広がりませんでした。
その後、再びオフィスをフリーアドレス化する流れが生まれます。
これをフリーアドレス2.0と呼びます。
柔軟な働き方を実現することで、生産性の向上や優秀な人材の確保を目的としています。
パソコンや電話のモバイル化に始まり、文書管理は電子化され、クラウド上で保存・共有ができるようになったり、ICTツールを活用して遠隔地とのコミュニケーションも可能になりました。
このように技術革新が後押しする形で、オフィスのフリーアドレス化が普及しています。
業務内容に応じてオフィス出社と在宅勤務を使い分けたり、さらに状況に応じてシェアオフィスやサテライトオフィスで働くなど、「ハイブリット型ワークスタイル」がアフターコロナ時代のニューノーマルな働き方となるでしょう。
フリーアドレスとABWの違いとは?
ここ数年のオフィスの動向として、ABW(Activity Based Working)という概念が取り入れられるようになりました。
ABWとは、業務の内容や個人の気分に合わせて、時間や場所を自分で自由に選択することができる働き方のことで、働く場所を「オフィス内」に限定しておらず、自宅やカフェ、サテライトオフィスなども就業場所とすることができます。
フリーアドレスもまた、Free(自由)Address(住所)という通り、「どこででも」仕事ができる働き方ではありますが、就業場所が「オフィス内」に限定されるものとして捉えられています。
ABWという働き方は、これからの時代にマッチした働き方と言えるでしょう。
出産・育児・介護などライフステージの変化に合わせて時間や場所を選んで働ける環境は、今後ますます求められるようになるのではないでしょうか。
まとめ|新しい働き方はニューノーマルになる
2021年2月5日に東京都より発表された『テレワーク導入率調査結果』(従業員30人以上の都内企業を対象:回答数436社)によると、1月後半のテレワーク導入率は63.5%と、昨年3月時点の調査(24.0%)に比べて2.6倍に上昇していることがわかりました。
規模が小さくなるほど導入率が低いと言われるテレワークですが、本調査によると30〜99人規模の小規模企業に限っても54.6%が導入しているそうです。
新型コロナウイルスの流行によりテレワークの導入が進んだことで「会社は(に行く)必要はない」と感じたワーカーも多くいると思います。
現にオフィスを解約するという企業も出てきています。
しかし一方で、会社に行けないことでコミュニケーション不足になり、仕事が停滞してしまったといったことが問題となっています。
オフィスは不要なのではなく、オフィス出社とテレワークを使い分けるということが大切なのだということでしょう。
コロナとの闘いは長期戦になることが予測され、引き続き私たちの働き方にも変化が求められるでしょう。
そのような環境の中で私たちは最適な働き方を見つけていくのだと思われます。
アフターコロナの時代には「今取り組んでいる仕事の生産性を一番高められる場所はどこなのか」という観点で働く場所を選択する働き方、広義の意味での「フリーアドレス」がニューノーマルになっていくのではないかと思われます。
オフィスが社員の活力に満ち溢れた場となることを願ってやみません。
オフィスのお困りごとは、
オフィスのプロにお任せください!
- まずはカタログ請求!
- どんな家具があるの? どんなサービスがあるの?
まずはカタログを見てみたいという方 -
- 相談したいことがある!
- オフィスレイアウト、移転・納期や予算の相談、見積
すでに相談したいことがあるという方 -
(活動に合わせて選択できる空間の個数が調査対象者の全体平均を上回っている)
(テレワーク制度[在宅勤務含む]とフレックスタイム制度の両方を利用できる)
(デスクトップパソコンと固定電話の両方を使用していない)
(心身を健康に保つ空間サポート数が、調査対象の全体平均を上回っている)